最寄りの駅から
こたきひろし

最寄りの駅から電車に乗る。自宅から車で七八分の距離に最寄りの駅はあった。JR線沿いの市街。
地方にはどこにでもありそうな駅周辺の風景。
車は近辺の有料駐車場に停めた。
どうせなら自家用車で東京へ行けばいいのかもしれないけれど、首都は車のドライブが不向きだ。都内は道が複雑過ぎて迷う。一度迷ったら収拾がつかなくなる。第一停める場所がない。あっても駐車料金がバカだかい。
過去に何度かチャレンジして酷い目にあっているので流石に学習した。
東京は電車でいく所だ。地方出身者で地方に生活の場を持つ身としての結論である。

俺にとっても妻にとっても東京は棲むところじゃない。たまに遊びに出掛けていく所だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
大都会の風景はテレビの映像から垂れ流されている。大都会の暮らしはドラマを見て疑似体験。したくもない。

宝くじが買いたい。
年末になると妻が口に出す言葉。
籤なんて当たらないよ。
それがいつも返す俺の返事。
そんな事わからないわ。買わなければ当たらないのよ。
と妻に返されて、お金が勿体ないよ。と、結論を俺は急ぐ。
すると妻は、お金で夢が買えるのよ。と応酬する。
俺はなぜか、夢が買えるのよと言う言葉に弱い。
家のローン後何年あるだろう。お金で夢が買い、もしも現実になったら借りた金はいっぺんに返済し充分お釣りが来るだろう。
夢を買いたいから東京へ宝くじ買いに行こうよ。
妻が目を輝かせた。
そこで俺は言った。
夢を買うにしても近場でいいんじゃないか?
それには妻が反論した。
ダメよ東京でなくては、有楽町の西銀座でなければ駄目なの。

その日。夫婦は最寄りの駅から電車に乗った。上野迄は二時間くらい。各駅止まりの普通電車に乗った。
夢を買うのに特急も急行も贅沢だ。

俺にとっても妻にとっても東京は棲むところじゃない。


自由詩 最寄りの駅から Copyright こたきひろし 2019-03-31 10:19:42
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