やがて空に星と月
高林 光

そっと、やりすごす

3月に降る雪のように
待ち焦がれた春のぬくもりを
追いやってしまっても

身の置き所もない苦しみも
雲間から射す刹那の空想も
砂浜に打ち寄せる静かな波が
押して
また引くように
いつものことと
気づかないふりをして

そっと、やりすごす

いくつもの美しいことが
ぼくの手を離れていっても
いつか見た
秋の空に浮かぶ白い雲は
今でも美しいままに
新しい記憶が
ひとつとして刻まれなかったとしても

いまは
過ぎていく道を
ただ歩いていく
どの道を選んでも
山に続いている
ゆるゆると意思もなく
足だけが動いている
それでも
山の端にはいつしか陽が沈む

ぼくらは少し
弱かっただけ
生まれ変わることができなくても
心だけ寄り添って
見なければならなかった本当を
そっと、やりすごしながら

やがて空に星と月

      Inspired by Large House Satisfaction「やがて空に星と月」


自由詩 やがて空に星と月 Copyright 高林 光 2019-03-26 09:36:58
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