青空
新染因循



青空。

あれは欠けてしまった心だ、
心の欠けらなのだ、
重力のようにわたしを惹き、
赤子の瞳のように影を呑むのだ、

どこにも行けないという幻肢痛。
慰めがたい痛みを慰めようと
冷ややかな雑踏のなかに
わたしは身をうずめたのだ。

黒々としたアスファルトのうえ、
鈍い玉虫色の水溜りをまたぎ、
あらゆる影から滲みでた激流が
奔る、奔る。

からみとられる足もない
もがくべき腕もないわたしは
ただ溺れ流されここに在る。
ここに、在るだけ。

失くしたものも忘れて
波間にたゆたうクラゲのように、
だがクラゲは飛べはしないのだ
いかに惹きつけられようと。

忘れたことに涙し
涙することを忘れるころ、
雨は降らない。
澄み切った青空だけである。



自由詩 青空 Copyright 新染因循 2019-03-17 11:59:47縦
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