Sestina2
ふるる

催眠術にかかっている間に
彼らが買おうと思っていた家は燃えた
右も左も分からない子供のような街
サイダー売りの声はとてもよく響く
私の住所は内緒にしておかないと怖い
何が起こるかわかったものじゃない

そんなに心配することでもない
犬が吠えまくって飼い主に蹴られている間に
コインランドリーの裏は暗くなっていく怖い
まっすぐな恋の瞳が日ごと静かに燃えた
駅前の時計塔の鐘がそしらぬ顔で響く
新品の破れ靴を売る店が現れては消えていく街

君がふわふわコロッケに憧れる商店街
どこかと聞かれても答える術がない
工事の振動がこの土地全体に響く
告白の尻尾をつかめそうと迷っている間に
なんとなく始まった焚き火はきちきちと燃えた
ま冬なのに、と君は言う。生暖かくて怖い

昔を今さっきみたいに話す君の声はかわいくて怖い
くらいで、林檎の匂いのする想い出に揺れる街
秋深くネコも催眠術師も夕陽色に燃えた
約束の時間に君はあらわれない
満月が挟まって動けずにいる電波塔の谷間に
くらくら僕の恋心は響く

最上階の部屋で悲鳴は視神経にまで響く
夢が魚のような感触を増していくようで怖い
僕は急いで剥がし屋へ行った、君が浅瀬の眠りにぶらさがっている間に
助けてくれそうな人は皆引っ越して小雨の水中花の街
あの工事のせいなのかソーダにクリームを混ぜたせいなのかはわからない
立ち上がるべきだ、と国選弁護士の瞳は正義に燃えた

急カーブで放り投げられた証拠はあっというまに燃えた
月が近づいてくる、と叫ぶ君の白い足が踊り場に響く
結局ことはうやむやにされさすがに覚えている人もいない
叫び続ける彼女も恐怖だがほんとうに怖い
のは都合の悪いことはいち早く薄れてゆくこのガラス張りの街
もういい逃げよう、黒い大きな鳥が密かに数を増やしている間に

やっと目覚めたはずの彼らもいない のろのろと河だけが燃えた
黒こげの楽器たちが騒ぐあい間に 増えすぎた大きな鳥のうめき声が響く
怖いほど無口で無口で怖い 上も下も分からなくなった街



sestina=セスティナは一連が六行、各行の最後の六つの言葉が毎連ごとに繰りかえす詩型。(この詩の場合は 間に、燃えた、街、響く、怖い、ない、を繰り返す)
単語の繰り返しのパターンは次のとおり。各数字は行の最後の単語を表す。

1 2 3 4 5 6
6 1 5 2 4 3
3 6 4 1 2 5
5 3 2 6 1 4
4 5 1 3 6 2
2 4 6 5 3 1
(6 2)(1 4)(5 3)


自由詩 Sestina2 Copyright ふるる 2019-03-15 23:15:25
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