魔物の季節(6) <小説>
パン☆どら

<作者よりご案内>
皆さまお気づきと思いますが、悪乗りが過ぎて話がどんどん長くなっております。できるだけ短くするよう努力してきたつもりではありますが、それも面倒になってまいりました。なのでこれ以降はそのまま投稿いたします。長い話が苦痛の方は、読まずに飛ばしていただくようお願いいたします。

***


私は早速、社長にカルパス氏の実験について掛け合った。
社長は事の重大さをすぐに理解した。そして私のほかにもう一人を現フォ王国に送り込むことを決めた。
「新人の河合君と一緒にカルパス氏の実験に参加してくれ。ぜひともその実験の成果をわが社のものにするのだ」

私は新入社員である河合直美を呼びだした。
そしてこれまでの事情を説明し、来週早々現フォ王国にわたることを伝えた。
「あのー、カルパスさんて外人なんですか?」
「外人?いや、生粋の日本人だよ。そうか、名前の由来を知らないんだな」

そこで私はカルパス氏の家族について説明した。万が一でも失礼な発言があってはならないからだ。わが社の現状は、カルパス氏が命運を握っていると言えた。というのも、最近他社がわが社のメンタルコントローラーに似た製品を投入し始めたからである。優位を保つためには、できるだけ早い段階で新機種を投入する必要があった。

カルパス氏の名前は歌留多晴夫という。現在は発明家としてわが社と提携している。そのご子息は波留寿と書いてパルスと呼ぶ。カルパス氏は以前、某大学の理工学部の助手(助教授より下の地位)をしていたので、息子にも理学の道を歩んでほしいとの願いからそう名付けたのであった。ご子息が小学校に上がると、あだ名をつけられるようになった。カルタパルス→カルパルス→カルパスという具合に、ご子息は「カルパス」と呼ばれるようになったのだ。その話を聞いた晴夫氏がカルパスというあだ名を気に入り、自分のことを大カルパスと呼ばせるようになった。一方、ご子息は高校に上がると「パル」と呼ばれるようになったので、大カルパス氏は大をとって自分をカルパスと呼ぶようになったというわけである。

「へー、要するにバカボンのパパがバカボンと名乗るようなもんですね」
「んー、なんか違うような気もするが、そうなのかもな」
「なんだか変わり者っぽいですね」
「うん、実はあの一家は全員すごく変わり者なんだ」

カルパス氏の奥様は淳子という。若かりし頃はなかなかの美人であったという話だ。それが堅物のカルパス氏と結婚したのは周囲でも驚きであった。しかも積極的にアプローチしたのは淳子の方であった。

実は淳子は競技かるたの選手であった。青春を競技かるたに捧げ、かるたクイーンの座を目指して毎日猛特訓したそうなのだが、やはり壁は厚くそれはとうとう叶わなかった。そんな折、たまたま参加した合コンに歌留多と名乗る男が現れた。その男に彼女の胸はときめいた。いや、正確には名字にときめいたのだ。この名字を手に入れることこそ彼女のかるた愛を実現することなのではあるまいか?

要するに彼女は歌留多という名字が欲しかったのだ。

結婚して最初にもうけた子供が波留寿(パルス)であった。しかし彼女はどうしても女の子が欲しかった。自分では叶わなかったかるたクイーンの夢を実現するには女の子が必要だったのである。そしてついに念願が叶い、兄とは6歳離れた妹が誕生した。それが「歌留多馬子」である。どうやら「かるたうまし」のダジャレのようであったが、さすがにその読みではまずいということで「マコ」と呼ぶことにしたそうだ。

その後は母親の猛特訓の成果もあり、ご令嬢である馬子嬢は地元でのかるた大会では負け知らずであった。もちろんA級(※1)の資格を持っている。現在は中学3年生で、来年はどこの高校で競技かるたをするのか、思案中なのだそうだ。

「競技かるた、ですか?」
「そう。いまちょっとだけブームらしいからね」
「ブームなんですか」
「うん。なんでも東京の瑞沢高校(※2)というところが無名にもかかわらず全国制覇したんで、一躍参加校が増えたんだってさ。マコさんはそこに行こうか今悩んでいるらしいよ」
「なんだか変わってますね。もっと楽しいこといっぱいありそうな気がするけどな」

「ま、カルパス氏は競技かるたには無関心で、奥様の方も競技かるた以外のことには無頓着らしい。それで逆にうまくいっているらしいよ。お互い好き勝手にやれるからね」

そんな話をしていると、突然工場から電話がかかってきた。
なんと、生産ラインで原因不明のトラブルが発生したということであった。ただでさえ出荷が遅れ気味なので、私はすぐに現場に行くことにした。もちろんカルパス氏にも連絡を取った。しかし、彼は実験の準備で忙しいため、手が離せないという。

河合直美には、出発の準備だけはしておくようにと伝え、私は工場へと急いだ。
結局トラブルはその日では解消されず、3日ほど経過した。仕方なく私は河合直美に電話を掛けた。
「申し訳ないが、一人で現フォ王国へ行ってカルパス氏の実験をサポートしてくれ」

私はもちろん、他の社員も手いっぱいだった。彼女には気の毒だが、何とか一人で乗り切ってもらうしかない。


(第6話終わり)

※1 A級:競技かるたの選手の資格にはA~E級があり、A級は四段以上と定められている。詳しくは「ちはやふる」(末次由紀著)を読むべし。

※2 瑞沢高校:「ちはやふる」のヒロイン・綾瀬千早が通う高校。高校二年の時に、団体戦で高校の全国制覇を成し遂げた。


散文(批評随筆小説等) 魔物の季節(6) <小説> Copyright パン☆どら 2019-03-05 22:47:18
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