ドレリア
la_feminite_nue(死に巫女)

 風の種を、冬に播き、夏、嵐を刈り入れる。この平原ひらはらはまるで、ユトランドの牧景の様に、野を、素朴の音が渡り、農人達が、獲入とりいれの厳かな儀式を行う。晩鐘色に田の覆われる秋、彼らの仕事は謡いである。虫のが、すだき、砕ける。小道は、目をよぎる彼方の樹林を抜けて、遠く、地平の丘へと続く。黒雲くろくもが往く。月は上前に浮かんでいる。唱和となえつつ、風にゆられる稲穂からのように、捧げは尊く、音楽はかすかに鳴っている。……夜着を纏い。外洋へと突き出した、当地の断崖からは、遐く沖をゆく外国の帆舟へのように、遥か恋人達の心根のように、双つの腕は振られていた。朧なたましいは空へとあがった。海浜を移ろいながら、求めつつ過ぎゆく永劫留まり処のない魂は、漂泊の湖上をさまよっていた。にはくろく厳めしい巌の映り。月は未だ照っている。……この夜を賭け。風車かざぐるまは巡る。空のあおを移して青い、全き青に咲き乱れる、この花々の丘の頂きに据えられて。衣を剥ぐ、この夜の罪を、一心に葬っている。……ドレリアは未だ俯いている。彼女は今日も黒のドレスを着て、ほの暗い厨房のなかに佇み、歴史家の誤った日々を追想している。きぬには膿める紅い血の刻み。……彼女の瞳は、黒に砕ける。既に、この雨夜の夜曲は奏でられない。月は高天を渡ってゆく。ドレリア、この地平が覆われるのはいつか。


自由詩 ドレリア Copyright la_feminite_nue(死に巫女) 2019-02-22 15:33:34
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