消しゴム
為平 澪

私の部屋から消しゴムが消えた
自分で買い続けた漫画や画集本より
知らない人から送られてくる詩集本が増えた頃に

机の周りは書き散らかした紙で黒文字だらけ
背表紙の文句に踊らされた本棚
その息苦しい主義主張を一気に裏返して
全部白紙に戻してみたい

派手に色を付けようと輪郭をとろうとして
失敗し続ける線を消していきたかった
例えば 良い事だらけを書こうとして
三日も持たなかった日記
今は友達ではない女だらけの写真
燃やせば消えてくれる手紙の束や
指に入らなくなったカレッジリング
誰とも交流のないOB誌

カラフルに縁どられたもの中身は
だいたい黒いモノばかりでできていて
今すぐほしい物が出てこない魔境の家で
私は見つからない消しゴムを探し続けた

昔から使っていた消しゴム
小さく汚れた練り消しでもいいから
みんな丁寧に拭き取ってしまいたい

厠へ行こうとした時
納屋に落ちていた泥だらけの運動靴
この靴も帰りたいのだろうか

学生時代 狭い部室に真っ直ぐ歩いて
下手な絵を描いていた私

消しゴムが一番必要だった頃
私のノートには走り書きの夢物語
喜怒哀楽の激しいキャラクターたち
そして
私の描くどの線も
決して間違ってはいなかった


自由詩 消しゴム Copyright 為平 澪 2019-02-16 23:27:04縦
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