のつのつと雪が降る
ぽりせつ

のつのつと雪が降る
一本のモミによって辛うじてこの世とわかる風景
冬至の果てしない沈黙といっしょに
空が少しずつ崩れてくる
血の滲みだす包帯の一瞬の純白を地上にとどめながら
やがて凍えるような夜 ささやかな粒たちは
命たちの寝静まったあと、こっそりと懐郷にひたるみたいに
集めておいた青空を、たいせつに たいせつに灯しはじめる
 
小春日和の朝 広すぎる駐車場
こんな日は あなたの心臓にさわりたくなる
透きとおった大気で身体を満たして いいって言うまで息を止めて
爪がふれただけでも 痛いでしょう?
力をこめて握れば 苦しいでしょう?
意思と命を直列にして
生きることを単純にするのは気持ちいいでしょう?
 
おまえの手 ずいぶんと冷たいんだな 

病棟の屋根からつららが融け落ちる
光の落ちてくる音 いやな音
いいって言うまでって言ったのに
手のひらの仄あたたかさを手袋にしまう これが
あくびや あの欲情や 染めそこねた白髪となって いずれ灰となって

あなたはおどけて 誰かの古い詩みたいに
ひとつまみの雪を口に含む
意外と汚いのよ、こんな田舎でも
鬱陶しくなったぽんちょを脱ぎながら 記憶の中の煙突を一瞥する

今日分のくすりを一度にすませたんだよ

なにもかもが予感を孕んでいた
それが冬と 冬に生まれるものの美しさだった
銀の砂塵に吹かれるモミの木も
謙虚な雪明かりも
つららだったものたちも
手のひらの温かさも
雪をつまんだ跡も そして
あなたの珍しい弱音さえも

のつのつと雪が降る
一本のモミによって辛うじてこの世とわかる風景
冬至の果てしない沈黙といっしょに
空が少しずつ崩れてくる
血の滲みだす包帯の一瞬の純白に 私たちは生きている

やがて凍えるような夜
叫び出すに足りる雑踏は
もうどこにもない
白はあらゆる弔いの色だ


自由詩 のつのつと雪が降る Copyright ぽりせつ 2019-02-13 12:59:57
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