ほほえむ 顔
立見春香


うす汚れた
けだものの涎が熱い

この顔に
塗りたくられる
情熱の匂いがする
ねばつく息がくさい

それを
好ましいと思ってしまった
わたしの心臓が早い

いだきたい背中に
致死量に達する血の針の爪を立てたい
わたしの気持ちが重い

だれか
助けて

自由に手に入れることができる
愛する気持ちとかなら
まだ良いんだけど
無理矢理押し付けられる
淋しいけど言うことをきかせる
獣の声で叫ばれる
奪イタイ!
ってヤイバだけは
突き刺さるし
慣れないし
拒絶したい

けど
だれか
助けて

どんどん煙は
そちらがわへも
流されて行きたがってるのを
知ってしまう
訳?

それを
そんな
好きとか
言葉だけじゃ
納得いかない
もっと
いやらしい
認めたくない
なにかに染まった

だったり
することが
耐えられない
恥ずかしい

そんなこと
知らないけだものは
けだものの理屈で
熱い想いを
わたしに
ぶつける

拒む

ことさえ

楽しげな
けだものめ

そんな
けだものの皮を被った
人のために
わたしの中へ
冷たい愛情を
芽生えさせる
なぜ
こんなやつ

求めてしまうのと
問えど
自明な
笑い声がする
みずから
あざわらう
笑い声がする

でも
それを
自嘲
って
わかっているなら
それですべては闇におさまる

ああ、なんだ
これは
ふつうのひとなんだ
《ほほえみ》
って
こういうときに
する顔なんだ

スーッと
ほおをつたう、
あたらしい
針は
やさしく
すこし
あたたかい








自由詩 ほほえむ 顔 Copyright 立見春香 2019-02-12 22:39:16
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