豚バラの杖
Seia

ドラッグストアの駐車場に陣取っていた
移動販売の焼き鳥屋に吸い込まれ
威勢のいい声がなにか聞こえて
右手にはビニール袋に包まれた豚バラが一本

食べたのだ
食べたのだろう
テーブルの上に買い物袋
音を消した大相撲中継
コショウの味があとを引いて
喉の渇きと
ビニール袋に残った串
今日を過ごすために必要だった杖

嘘は良くない
当たり前のようなことをおもう
とっさに出た言葉を
引っ込めたくてもそれはもう昨日の
もしくは数年前のことで
渡した相手はもう覚えていなかったりする

ティーバックをカップに浸したまま
忘れて冷えた紅茶
牛乳で渋さをごまかしても
罪悪感は消えない

あさがきて
ひるがきて
ゆうがたが
わたしの横を通り過ぎようとして
このへんにはまだ
拡声器越しの笛を鳴らして
豆腐屋がくる
買ったことはないから
いつまでもいてほしいなんてことはいえない

使い捨ての杖を折って
ゴミ箱に入れる
食器を洗うついでに
手についた塩気のある油を落とす
蛇口から流れる音は
水族館の青さを思い出すから
今夜はアジフライがいい


自由詩 豚バラの杖 Copyright Seia 2019-01-27 22:53:44
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