えんばー 2
若乱

「会うってどういうことだろう
どこいったって変わらないなら
会えただけで幸せじゃないか

「幸せじゃない

「けれども人はいつでも果たされなさに生きている

「本当に会うって何だろう

「このさぁ
柔らかなぐじゅぐじゅの、果皮でなんとか形を保っている
醒めるような赤い果実を
甘くて、もうたまらないこの実はもあもあの繊維をまとった細長い種がついているわけだけれど
どうしたら本当に会う、になると思う?

一口かじると、はじかれるように果肉が溢れて口周りべとべとになっちゃうの

もしくは

手でゆっくり握りつぶしてみる?ぬるぬると手のひらで繊維に包まれた種の感触を思う存分楽しむ事だって会うってことかもしれないし



カ ルリィ …
あれ、石だわ…







とっくに光らなくなった小汚い小石を持って会いに行く


「会えたらもう、僕は幸せなんだ

「人の感情に行き止まりは無いのだ、生きている限り
同じように幸せとはほろりとこぼれた、熱いゼリーの温かな感触だそしてすぐに崩れ去ってゆく
「だからもう、会えたから僕は幸せなんだ

「会ってなんかないじゃない、ちっとも会ってなんか無いわ

「人に行き止まりはあるよ?行き止まりばかりじゃない
そもそもどこにも行けやしない

私たちは一人ひとり教えられた
それ自体 からの切り取りと
ただ、迷路をゴールまで覚えたとおりに毎日繰り返し続ける実験用のねずみのようなものじゃない?
私たちは世界に割り当てられた役割を、私の意志、という名前で抜け出せぬまま繰り返し続ける、神の奴隷だわ、
無意味に保ち、難破しながら進み続ける人という存在のその、道具の片割れだ、ただそれだけの存在だ
私たちは何処にも行けやしないし、本当に会うことだってかなわないの

「…だから、会えただけで僕は幸せだといったんだ
だから僕は笑い続けるんだ軽やかに…

「笑うしかないんだ、でも僕は塵ひとつ無く本当に幸せだからわらうんだよ?
どうすることもできない







いけません僕は忘れてしまいそうになります
僕たちは無意味なのでしょうか
僕たちはさもしいのでしょうか
美しい営みも
美しい言葉も
まるで意味がないようじゃないですか

卑屈さや僻みが逐一何かを忘れさせてゆうようです

僕たちはつまらないありきたりを繰り返す
あきらめるように食いつなぐしかないのでしょうか

「いやぁ…いいなあ、若さって

ふふと一里塚腰下ろして
ひざを折って緩やかにさみしそうに笑うおじさん

「だって僕には
身を切るような絶望も
脱気しつづける幸せもないのです

その上僕はこの瞬間にも老い続けているのです!

「ある意味それが絶望じゃん

「いいか、生きてんだから絶望なんて何処にでも転がってんだ
絶望とその瓦解さえあれば人は結構楽しいとおもうけどなあ
「それは死をはらみます
「おいおいずいぶんないものねだりがすきだな
人の美しさは意思に住む
楽しもうと思えば楽しいんじゃないの
要は心の豊かさってやつじゃないの
楽しみのツボを見つけるんだよ、きっと
目を見開け
おじさんは目をつぶりながらめんどくさそうに言った
.僕はその今まで人という種が積み立ててきた種として保ち続けるその構造そのものにそぐわない人間になってしまった
どう振舞えばいいのかわからない 優劣の無い仕組みなど人が積み立ててきた保つ方法に比べればただの虚構にすぎない。きわめてつまらない虚構だ
僕にはそもそも実力が無いしかしその事実は単純明快に穴が開くはずなのに人が生きてゆく、ということはそういうことのはずなのに




人は群れることで自身を強いとして、安心して自分を保つ
群れるには「そう決めること」が不可欠だ
僕は多くを「そう決めること」ができない
だって自分がただある、ということ以外宇部手が虚構なんだもの

僕は常に全てを否定するねぜならなにをしても否定され続けたから
そう育てられたから皆の群れるための「そう決めること」を僕は無意識に否定してしまう

「お前は何を求めているんだ

「やはり僕は認められたいのだと思います

お前が相手を否定する限り誰もお前を認めない
完全なんてありえない、特にお前は色々と気づくのが遅すぎる
すでに努力を怠りすぎてるなんだその外見は、なんだその気持ち悪い動きは
くそみたいな猫背はひょろひょろのからだはなんだそのゴミ見ないな過去は
なんだそのしみついたにおいはなんだその捻じ曲がりすぎた性格は


散文(批評随筆小説等) えんばー 2 Copyright 若乱 2019-01-22 18:34:58
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