置手紙
田中修子

美しい本と空と地面があった
あるいてあるいて
夜空や
咲いている花を
吸い込んでいくと かさかさになったこころが
嬉しがっているのを 感じた
雨の日には 本を読んだ
子どもらのあそぶ
不思議な魔法や、庭や、冒険の
こむずかしい悩みをつづるより
しずかで
丁寧で
うんとやさしいことこそ わたしの失ったものだ
ということに気付いたのが このところ

あなたにいつか
贈り物をしたい 贈り物ができるほどの こころになりたい

あなたのなかにある庭に
みどりが芽吹き 花が咲き 風が吹いて 鳥が来て
葉が落ちて すこしさみしくて 寒くても
そのぶん 夜空には星が光るだろう 月はしずかに照らすだろう

あなたの
かなしみといかりに それらが しずかに吸い込まれ
ひたひたと 満たしていく日日を

わたしの 小さな庭は まだまだ泣きたくなるほど貧しいのですね
もうすこし
待っていてください
いつかあなたに 贈りたいものがある
それはまだわたしの桜の蕾のなかに眠っているのでしょうから
ここに置手紙を
残していきます


自由詩 置手紙 Copyright 田中修子 2019-01-21 10:58:32縦
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