心臓と星
狩心

丸くてデカイ桃にある
梅干し型の秘密の穴に
雨を凌ぐ為の傘が突き刺さった
これからはじまるのだろう
わたしの心臓を裏返す様な
イボ痔のオーケストラの夜が

誰にも知られない葛藤の中で
町の喧騒を丸呑みにして唸る
狼男のような本能の叫びと体毛の発育
繰り返される苦痛と生命の勾配
夜空の星々は生々しい心臓になって
グロテスクにキラーキラーと輝く

過ぎ去った可愛い猫が
のんびりとした水の中で眠って
音もなく窒息死している
そんな水槽をわたしは食べた
想像妊娠で膨れた腹
深夜の公衆便所で胸が熱く破れる服
爆発しそうな心臓の星を産み落とす
何にも例えられない声と
冷たい壁の感触を確かめる手
花開いて消えた 光の瞬きの鼓動は
どこへ行ってしまったんだろう

這いずり回って
水溜まりの上にヘタリ込むわたしは
スカートもストッキングも
ビリビリに破れて
顔を地面に擦り付けて泥水を飲んだ

大丈夫ですかと
若い男が声を掛けてきたので
明日の舞台の為に
演技の練習をしていたんですよと
言い訳の出来ない熟れた体で
にっこりと笑った
口から出ているのは もしかして
蛙の足ですか
そうです 蛇女の役なんですよ
男の顔がひきつった瞬間
女は張り裂けそうなほど異常に発達した筋肉で 男を
バチンと
 磨り潰した

還元される場所を探していたのに
ドアは無限に続いていた

次の日
女はケロッとした顔で
昼間の自分の役を演じた

胃の中の蛙がまだ
イミの中でゲコっている

吐き出した体液からは
死産の タイ=ジの声

  ケイソウ 無味無臭
 就活、運命の事前登録
抹消、紐だらけの夏に 縛られて

 私には
 星の声がある
 遠く離れた知の
誰にも届かずに消えた思いと
誰かに届いて後悔した思い
チに飢えている
体感でも想像でもない
現実をかきむしって
中身を露にして
穴が開くほどかきむしって
その穴を潜り抜けて浴びる
すがることのできる情け
情けは容赦なく降り注ぎ
わたしはどんどんと堅く強く
孤独になっていく
情けは強く降り注ぎ
私をゆっくりと殺す
そんな私を見ていた貴方も
生きようと死のうとする
微かに繋がれた手を
当たり前のように信じるけれど
わたしはすべてを疑いながら
あなただけはと何度も語りかける

帰宅すると床が抜けて
下の階の食卓に転落する
椅子の足に突き刺さって
血反吐吐く
椅子の足が突き刺さったまま
ジョークを言って
にっこりと笑う
唖然としている家族団欒を尻目に
累累屍を踏みながらドアの外へ
警官が駆けつけて発砲してくる
パンパンパン
「私とセックスしたいの?
 今日も、晴れですか?」
はち切れんばかりの肉体で
弾を受け、世間の批判を吸い込み
口から臭気を放ち、
大きな牙を剥くと
現実が受け入れられないという顔をした
固まった蝋人形の警官
警官の顔が百万個に細胞分裂
その肩に手をかけて
「さて、
 今回の景観は」なんて
 さわやかに頭から食す
さわやかに食して
廊下にたった一人の食卓を作る

エレベーターが開いて
違う次元から来たセーフティネットワーカーが
わたしを人類のテロリスト呼ばわりして
先祖子孫万歳と言って 魂の爆弾で自爆してくる

 ビクともしないわたしは
 何事もなかったかのように
 階段を転げ落ちるように
 段落を改行し
シシャの歌を歌いながら
道路をシシャで埋め尽くす

 川に架かった橋まで来ると
 ぼーっと水鳥を眺める
水鳥を眺めて
橋の下を潜る船が作る
水面の波紋を
ぼーっと見つめる
 スマホを片手に 疲れて眠って
 もう二度と
 目を覚ますことはない
シシャノユメ

 丸くてデカイ 決の穴から
 チが
 滴っている

現実はこの
公衆便所の中に
 すべて詰まっている 糞だ
 流れない どうしたら流れるか
手を突っ込んで掻き回す
顔に飛び散る子供たち
 そしてふと、我に返る

ドアを開けて
腕を洗い流す
腕を洗い流して
 洗面所に腕を置いていく
 闇の中に消えていく
 片腕の人外
ひとり

それを追い掛ける 孤児の少年


自由詩 心臓と星 Copyright 狩心 2019-01-14 12:36:12
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