小詩
メープルコート


 昇る朝陽に恵まれて、小鳥の歌声もこの林道には涼しい。
 路傍の人との挨拶も愉しく、足元の落ち葉ですら愛おしい。
 別荘地に吹く風は清らかで、空気は澄んでいる。
 どこかの家からモーツァルトが聴こえる。

 古びた教会で私は毎朝の日課をこなす。
  ・・・家族全員健康でありますように。
 顔を上げると、真っ赤なランドセルを背負った小さな女の子が隣に立っている。
  ・・・お母さんの病気が早く治りますように。

 太陽はすでに高く、生の輝きに満ちていた。
 歓喜は誇らしげに次の作品の勝利を確信した。
 私は小さなアトリエで画布に向かい、今朝見た光景を想い起こしていた。
 眩い光の中に女の子の横顔と赤い印象を描いた。

 翌日、教会で静かな葬儀があった。
 そこには昨日見た小さな女の子がいた。
 アトリエに戻った私は、私の画布一面を黒く塗り潰した。
 その時、降り注ぐ太陽が一瞬間モーツァルトの顔に見えた。
 


自由詩 小詩 Copyright メープルコート 2019-01-12 05:08:56
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