ご静聴頂きましてありがとうございました
こたきひろし

人が息を引き取る瞬間と
息を吹き込まれる瞬間との
繰り返しが続いているのは間違いのない事実

夜更けの産院
もうすぐ我が子が産まれてくるのに実感がわかない
渇いている自分の喉を癒す方法がない
唇を結びながら明日の仕事の事を考えてしまう自分がいた

産院の待ち合い室の長い椅子に座っていたのは私だけだった
看護婦が近づいてき声をかけてきた
ご主人、奥さん今日中には産まれそうにはありません。何かあったらこちらからお電話差し上げますからいったん御自宅に帰って頂けますか
そう言われて私は正直張り詰めた感情の荷を降ろせたようでほっとした。

私は躊躇なく椅子から立ち上がると小さな産院の建物から出て狭い駐車場に停めていた自分の車に乗り込んでエンジンを始動した。
貸借している一軒家までは十分とかからない
途中コンビニに寄って飲み物と食べ物を買って駐車場の車内で胃のなかに入れた

飲食をすませると車のなかでぼんやりと考えていた
結婚して一年近く。その間に何度妻を抱いただろう
闇雲に重ねたセックス。欲望のままに。
避妊はしなかった
妊娠は当然の結果かも知れないし、お互いそれを強く望んでいた

なのにどうしてこうも気持ちが冷めているんだろう
男は女と違い自分の遺伝子が花開き実を結んだ時なんで言い様のない空しさが駆け巡るんだろうか?
まるで射精した後、さっさと背中を向けて眠ろうとするみたいに



自由詩 ご静聴頂きましてありがとうございました Copyright こたきひろし 2019-01-09 23:44:37
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