航路
たま

海は
海でしかなく
ひとは
ひとでしかないはずなのに
定期船に乗って
航路に出ると
なにもかも
忘れ物したみたいで
空っぽになったわたしは
地球ではない地球のどこかへと
まっすぐ
流されて行く
それが
あの日の
約束であったとしても
あの日が
いつであったのか
だれと交わした約束であったのか
思い出そうとする
意思さえも
海は
拒んで
わたしだけが
流されて行くかもしれない
航路は
でこぼことした
波のうえにあって
とてつもなくおおきな
生きものの
背中であったとしても
尋ねようのない不安は
風にちぎれて
海は
海でしかなく
わたしは
わたしでしかないはずなのに
日が射した水平線に
ことばは
生まれて
約束した日の日記とか
忘れ物した日の伝言とかは
もういちど
捨てなければいけないみたいな
くぐもった声が
聴こえるから
それはいやだと拒んでみても
いま
こうして
意識の片隅で
奪われて行く体温が
あなたのものであったことに
気づいて
わたしは
ようやく
海の正体を知る















自由詩 航路 Copyright たま 2019-01-09 14:12:03縦
notebook Home 戻る  過去 未来