普通電車に乗って
こたきひろし

電車という文字に普通が乗ると
普通でなく思えるのは普通じゃないのかな

もしかしたら私は意味不明な存在なのかも知れない
それはともかくとして
滅多に乗らない電車にその日乗ったのは
東京に行くためだった
西銀座の宝くじは他で買うよりいいらしい

数日前に最愛の妻が言った
宝くじが当たる夢を見たの
そうかよかったな
その先に妻が言いたい事の想像がついたから
私はわざとらしく気のない返事をした
そしていかにも思い出したように私は言った
妻の関心をそちらに引き寄せたくて
昨夜はお前の夢を見たよ
結婚してはじめてと付け加えた
すると妻が
貴方の見た夢なんてどうでもいいわ
どうせろくな夢じゃないでしょ
そうかもな
お前が何者かに拉致監禁されてしまう夢だったから
何よそれは悪い夢じゃない
あたしが見た夢と比べたら雲泥の差ね
そうでもなかったよ
私は言った
何処かにさらわれて行方不明になったおまえを
危機一髪の所で救ったんだから
誰が?
妻が聞いてきた
勿論と言って私は自分の顔を指で指した

西銀座の宝くじは他で買うより当たるらしい
妻が言った
買う人が多ければそうなるよ
私がそう反論すると
いいからさ今度の休みに宝くじ買いに東京に行こうよ
と言って結論を口にした

早朝の電車内は空席が目立っていた
妻は座席に座ったが私はその前に立ってつり革をつかんでいた
妻が何度も横に座ったらと言ったけれど
断って立っていた
それは心のなかに隙間の多い私のあるべき姿のような気がして
ならなかったから


自由詩 普通電車に乗って Copyright こたきひろし 2019-01-09 10:09:55
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