空港ピアノ
やまうちあつし

世界で一番
小さな空港からは
一番遠くまで飛ぶ
飛行機が出るという

帰りの便はない
行ったきりそれでおしまい

だから飛行機も
使い古されて廃棄するだけの
年老いた機体ばかり集められる

空港のロビーには
ピアノが置いてあり
誰でも自由に弾いてよい

フライトを待つ間
気の向くままに鍵盤を鳴らすのは

あなたの双子の片割れだ

わたしに双子など、なんて
とぼけてもムダだよ

この世に双子でない者など
ひとりもいない

そして
生き別れていない者など
ひとりも

耳を澄ませば
聞こえるかもしれない

たどたどしい
ソナチネの4番

誰でもいつかは
その空港に行き着くだろう

定年後の話か
来週の日曜か

ピアノの前で再会したふたりは
どちらからともなく連弾を始める

出発の時間まで
あとどれ位あるのか
気にすることもなく


自由詩 空港ピアノ Copyright やまうちあつし 2019-01-07 09:55:53
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