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蚊恋

君がわたしの産声をおぼえていたならいいのに
わたしが君の産声をおぼえていたならいいのに


悪い夢にうなされる夢を見たよ
誰かと話す君の声がしたよ
星屑またたいて不安になったよ
知らない曲にステップを踏んだよ
だめと言われて頷いてしまったよ
いちばん嬉しい時に逃げたくなったよ
香りで花の名前を当てられたよ
きゅんと心が汗ばんでしまったよ
鼻歌を急にやめたくなったよ
君に会うだけなのに嘘をついたよ
温もりが欲しくて眠ってしまったよ
君の横顔に睫毛を伏せたよ
「やさしい人」とまた言われてしまったよ
朝が怖くて歌を歌ったよ
甘い匂いに爪を噛んだよ
キスの味をふと知りたくなったよ
オルゴールをまた取り出してしまったよ
私の好きな君ばかり欲しがったよ
行ったことのない場所に君を描いたよ
何でもない朝に死にたくなったよ
君の弱さにおこがましくなったよ
時計の音で目が覚めてしまったよ
懐かしい匂いと言いきれなかったよ
呼び方を少し迷ってしまったよ
ゆるく温い風に足を止めたよ
「髪が伸びたね」と言われてしまったよ
三歩目で家を出てみたくなったよ
あの曲を思わず口ずさんでいたよ
誰かの胸で夜を待ちたくなったよ


君がわたしの産声をおぼえていたならいいのに
わたしが君の産声をおぼえていたならいいのに



自由詩 サンプル Copyright 蚊恋 2019-01-03 13:22:16
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