「約束をしないで会えたら僥倖」
桐ヶ谷忍

またね、とは言わない
また会える前提で手を振った幾人かが
二度と会えなくなったから
立ち去るとき
そういう人は足音をたてない
寸、寸、寸、と離れていく

私もまたそうしてきた
いかにもまた楽しい時間をすごそうと
暗黙の約束を結んだ笑顔で
じっと影を踏まれない所まで離れてから
もうそれきりにした人たち
泣いたり泣かせたりして
花びらを一枚ずつ散らし
だんだん花芯だけになっていくように

私の知らないところで
あなたの知らないところで
共有出来ていたかなしみを
たったひとりで持て余す夕方に
どんなに引き伸ばしても
もう誰にも届かないのに
この影の内に誰かいないかと
探してしまう癖を
きっと誰もが抱えている

我が儘な私たちは臆病でもあり
立ち去る理由を告げず決別する
さようならと言って別れる優しさを
持てないまま



自由詩 「約束をしないで会えたら僥倖」 Copyright 桐ヶ谷忍 2019-01-02 06:39:06
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