見えない幻
ただのみきや

夕陽を抱いた木々の裸は細く炭化して
鳥籠の心臓を想わせるゆっくりと
いくつもの白い死を積み冬は誰を眠らせたのか
追って追われる季節の加速する瞬きの中
ゆっくりと確かになって往く単純なカラクリに
今日を生きた溜息が死滅した銀河のように纏わって
風の映像だけが破壊すら破壊する静寂を響かせた
荒れた手の微かな痛みが慰めの手紙なら
想い人はコインの裏表共に在って
未来永劫出会うことすら無い
裂け目から太陽でも月でもない明かりが漏れ
幻燈が憑依する事物は新しい仮面をつけて
古い祭儀を繰り返しながら再び収縮する
生が死へとそうするように完結する度
余韻であり残り香である薄れゆくものらを
追うことの予め定められたかのような餓え
たのしげに語り合う人々から離れ
ゆっくりと飼い馴らす苦い薬のように
夕陽を飲み干したわたしの中の夜が冷める
微かな笑い声と微かな泣き声は双子のようで
ひとりの友だったろうか闇の中震えながら
肢体をくねらせているそんな気がして
言葉の代わりに全身から発芽したもの
無意識の選択が分けていった種のように人を
なんと名付けられても構わないと待ち伏せて
さらわれるために顔を鏡にしながら
ガラスを叩く氷の粒
秒針で苛まれる牢獄の隅の深い群青
心に目隠しをしてくれる蛾のように白い手は
決して来ない



                《見えない幻:2018年12月31日》








自由詩 見えない幻 Copyright ただのみきや 2018-12-31 16:12:09縦
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