黒い箱
やまうちあつし

黒い箱を買うことにする
店に行けば売っている
値段は全財産の半分
富める者も貧しい者も
持っているものの丁度半分
店に行っても選ぶ余地はない
買うことを告げると
店員が店の奥に入って
適当なものを見つくろってくる
大きさは人によって異なる
両手で抱えるほどのものもあれば
手のひらに乗るくらいのものもある
形はたいてい立方体だが
直方体のものもある
これから生涯かけて
黒い箱を所持すると思うと
何だかこそばゆい
部屋に飾ろうか金庫にしまおうか
カバンに入れて携帯するのもいい
どこかにふたがあり開く様子もない
振ると音がするわけでもない
精密機器なのかただの固形物なのか
それもわからない
足早に店を出る背中を
店員が何とも言えない表情で見送る
おそらくそれが趣味なのだ
ありがとう、とも
おめでとう、とも
言わないことになっている


自由詩 黒い箱 Copyright やまうちあつし 2018-12-30 12:09:28
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