死んだ感情は線路の上
大覚アキラ

ビールにおつまみ
コーヒー
お弁当はいかがですか

そんな感じの台詞を
抑制の効いた
しかしよく通る声でつぶやきながら
小太りの売り子がカートを押して近づいてくる

月曜の午前中
新幹線の乗客たちは
みんなまるで死人のように静かだ

朝8時台に新大阪からのぞみに飛び乗れば
正午前には東京で打ち合わせのテーブルに着いている
とんぼ返りすれば
夕方からの大阪での会議にも出席できる

なんという馬鹿げた便利さと快適さだろうか


ちょっとおねえさん
アイスクリームを

この便利さと快適さを手に入れたにもかかわらず
愚かなぼくたちは
どうしても観たい展覧会を観るためでも
テレビで見たあのハンバーグを食べるためでも
愛しい人とほんの数時間会うためでもなく
くだらない打ち合わせと
つまらない会議のためにしかそれを使おうとしない

死んだように無表情な
感情の切れっ端を繋ぎ合わせ
線路の上を突っ走る白い箱に乗せて
乗せて
東へ
東へと

富士山は薄曇りの空の下で
今日もあいかわらすだらしなく広がっている

アイスクリームは
いつまで経っても溶けない


自由詩 死んだ感情は線路の上 Copyright 大覚アキラ 2018-12-27 19:56:54
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