いつかの伝言板
帆場蔵人

古物が集積された
墓場のようなビルの前
フェンスにもたれて
剥げた手足を
褪せた顔を
晒しながら
途方に
暮れて
きみは空を斜めに
見つめている

いつか駅にいたきみ
もうなにも書き込まれる
ことなく、雨、雨、雨だ

いまは雨、懐かしいきみの隣
でフェンスにもたれ、たわんだ
フェンスの分だけ和らぐ気持ち
いまはひとりだ、きみもひとりか
明日は廃棄か、それとも朽ちるまで
ぼくと変わらないね、耳をあてると
冷たくてつめたくて
ぼくらふたり
雨ざらし

ポケベルも携帯もなかったから
きみに暗号を託していた日々
フェンスが少しずつ二人を隔てて
すっかり忘れられてしまった八月の
朝からきみに会うことは
なくなった、最後の暗号
謝りたかった

待ち合わせはないから
一緒に空を見上げよう
いまは雨、もう晴れた
冬の虹が滲んでるよ

放たれた鳥は帰ってはこないから
もうすこしだけ空を斜めにみていよう
足元の水たまりに最後の雨粒が落ちた


自由詩 いつかの伝言板 Copyright 帆場蔵人 2018-12-26 12:44:45縦
notebook Home 戻る  過去 未来