ちひさな国
石村





おとぎ話の中の国は もう
わたしのことをおぼえてゐません

キセルをくはへたお爺さんは もう
わたしのことをおぼえてゐません

アコーディオンをかかへた青年と
まきばで働くやさしい娘さんは もう
わたしのことをおぼえてゐません

とんぼをとりに行つたこどもたち
巣穴にひそんでゐる野うさぎたち
婚礼の準備をしてゐる村びとたち

おだやかな風がふく ちひさな国は
もう
だれのこともおぼえてゐません

布張りの本の手ざはりは いつも
あたたかでした

その本は もう ひらかれません
よごれた星にすむ わたしたちみんな
わすれられてしまつたから







自由詩 ちひさな国 Copyright 石村 2018-12-22 17:15:26縦
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