スラム街の坂道
羽根

段々と暗くなると
高層ビルの窓は
オセロのような欲望の明かりが灯り
ピンクのネオンサインが溢れ
歩道は一面の雪の様に白くなり
それに集まる無数の黒蟻

移された木々は異様で
場違いのような曲がりくねった緑に育ち
夜を知らない街に様変わりする都会

夕方になると裏にあるのは薄汚い石畳の坂道
坂の上は暗い袋小路のスラム街
石と石の間は蝸牛や蛞蝓の通った後のように黒く光る

坂の両側は古い家の安物の板塀や
罅が入って倒れそうなブロック塀
薄黄色い下着の洗濯物が無造作に吊るされている
川辺から二つの石を持って来て
水ヤスリで削って丸くして
石にはボブとミックを塗り込める

手を離すとコロコロと石はゆっくり下がり始める
回転する石は時々は飛び石のように少し跳ねる
坂の十字路は殆ど平たく静かに転がって止まりそうな時
急に石は灯台のように閃光を放ち始めた
転がる石はまた坂を下り始め

段々と回転と速度を増し
しだいに遠くに離れて小さくなると
逆に遠くになればなるほど
割れた教会のステンドグラスや
回らない万華鏡
汚れて剥がれたクリムトの金色のような色彩を放ち
鋭さを増し眩しいほどに明るくなる

遂に石の存在を消すほどの輝きになると
大きく跳ねて水平線の上に浮かぶ夕陽に飛び込み
まるでローマ帝国が繁栄を謳歌したような
都会のイルミネーションよりもさらに美しく
均衡した石畳のスラム街の坂道を映し出し
いづれは沈む夕陽にさらなる輝きを与えていた


自由詩 スラム街の坂道 Copyright 羽根 2018-12-15 23:16:55縦
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