クロッキー 4 夜盗
AB(なかほど)

ちぃたかた

今朝発見された
言葉もない頃の手向けの花は
やがてその形も無くしてしまう
のかもしれないけれど
それが僕らの世界のはじまり




フランケンムース

年中クリスマスの町でもやっぱり雪が似合って
人々や馬車に踏みしめられた道路が陽に照らされると
ドイツ風の建物が一層際立つ
そろりそろりと歩くと、あれもこれも
終わってしまったことばかり思い出されて
知らない町なのに立ち止まったり振り返ったり



ワールドアパート

新小岩駅から北東約十五分
すべての始まりはそこで
やがて花火の夜に散るように
マイクロバスからあせた国際色が帰る場所
すべての始まりはそこにあるよと
信じるものたちの終わりも始まる



きろ、つきはなし

ぼく、で始まる作文は良くありません
と先生が言ったものだから
ぼく、はとりあえず僕の事はおいといて
まるで明後日の方から見た事を喋り出す
ぼく、はほんとの僕が見えなくなるまで
そんな事ばっかりやっていたので
世界中の誰よりも僕の事を知らない人間になって
それなのにぼく、は、あいかわらずの僕は
先生が読んでくれる作文を書きたい




白の終わり

雪が溶けるように
君のなかから消えてしまう
それは僕の意志でもなく
らいららい と
誰かの春待つ鼻歌にも溶けて




この馬鹿野郎

しめしめと詩を書いてみる
なるほど、ひとりの夜にすることじゃない
ついでに曲などつけてみる
じゃかじゃ〜ん、ってさ
ふ、ふられた夜にすることじゃあない
ってこれも書き留めておこうか




からくれない

君からくれない空に一番星
千年の恋で僕の全ては君に滲んでしまった
というのに君は明日からくれないになる
のだと言う
その時僕は忘れてしまうんだろうか
夢にも明日にも
君からくれない空に二番星



空腹と夜盗

秋になると空きっ腹と夜を更かして
ふるふるとする胸を抑え
りんごのような君へ抱えきれない夜が
こぼれ落ちてるよ
りり り、
と秋になると空きっ腹と夜を更かして
こおろぎのように鳴いてみる
りんごのような君へ
もう思い出せない夜にしておくれ



エンキドゥが泣いている

チグリスチグリスユーフラテス
もう日が暮れたのかな
チグリスチグリスユーフラテス
新しい日は昇るのかな
チグリスチグリスユーフラテス
バグダッドは迷子になったのかな
チグリスチグリスユーフラテス
最初のお話に帰れるのかな
チグリスチグリス最初の唄が聞こえたなら
ユーフラテスと一緒に帰ろう

はじめのお話へ
はじめの国へ
はじめの言葉へ
はじめての魂へ
 
チグリスチグリスユーフラテス
いつかは帰れる




にせウルトラマン

早くお家に帰ろうと思うのだけれど
僕らのカラータイマーの単位は相対的で
そんなもの付いてないのが本物だよ
とつぶやきながらまだ帰れない
守るべきものなんか出来たらなおの事
たとえ胸の辺りで光り出しても
気付かぬ振りをしながら
もう昨日の自分にさえも戻れない


自由詩 クロッキー 4 夜盗 Copyright AB(なかほど) 2018-12-15 00:36:50
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