有想枕
ふじりゅう

僕は
 何も出ない器を 逆さにして捨てる。
 埃だらけの手紙を、もう捨ててしまう。
 ライターもチャッカマンも、使えないけれど。

月灯りを見る。想う。

 …最初の火の粉が
 …細い花びらに封じられていた
 …お父さんのたばこ用の火を
 …こっそり点けた 始まりの匂い

 暁に溶かされかけながら
 細い糸をゆたり ゆたり引きずる 何時か頃
 狼の様に仕事疲れだけ背負っているだろう。
 おもむろに
 ノートを開けたら
 見守られながら綴った内臓が居て
 僕は はにかみながら それも破いて捨てる。

 ひび割れた写真たても記憶ごと千切る。
 夢と汗の物語を 強引に霧散する。
僕は干からびた 八足の嫌われ者のよう
ライターもチャッカマンもガスが抜けて久しい。
よしんばあっても 燃えるモノなど残ってない。
 仕事鞄も、くたびれたら捨てちまおう。
今日も心臓が、元気だ。明日もきっと、元気だ。

僕は、魔法ビンとうっすら夢想してた、
器を逆さにしてみた。
むくりと部屋を出、埃の布団を剥がして
ちっぽけな手紙を広げた 記憶を広げた
月を見上げてみた。一つ一つが
一つ一つの行動が あれよ という間に過去になった。

コロン。
と 小さな音に 僕は気づかなかったけど
突然生まれた器の上のあれは
捨てなかった全ての火の粉の結晶だと
一つ一つを生き抜いたあとで 分かった小さなことだった。

うとうとしてくる。胸が燃えるのが分かる。
 明日も、大切で小さなフレアの一片になるから

考えなくなった。寝た。


自由詩 有想枕 Copyright ふじりゅう 2018-12-14 16:37:04
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