耳鳴りの羽音 version Ⅱ
帆場蔵人

こつン…… パ タ たタ ……

硝子戸がたたかれ
暗い部屋で生き返る
耳鳴りがあふれだして

からの一輪挿しは
からのままだ

幼い頃 祖父が置いていた 養蜂箱に
耳を あてたことが ある 蜂たちの
羽音は 忘れたけれど なにかを探していた
耳鳴りは 蜂たちの羽音と 重なり
ひややかな 硝子戸に 耳をあてて

蜂 になるんだ

やみに耳をあて 描く やみのさき
花は咲き 花びらは風にすくわれる
花びらが風を打つ音に さそわれ
蜂は さ迷いまわる ばかり、ちりたい

花は……

どこ?

いつかの部屋に咲いていた
花の手ざわりは あたたかで

一層 孤独をあぶりだし
あまい蜜はよりあまく

一輪挿しにはいつだって
花が咲いてた 枯れもせず

蜂になりたい
なんのため?

こころから飛び出した手

だれかのこころに

触れたい 花に?

女王蜂の蜜に 乾いた
こころをひたしていた 安らかな 日々
ふたつのこころが 融けあい 生まれた
ふれれば消える儚い花は耳鳴りを包みこみ
ふたりの間で 静かに咲いていた
あの花の名は もうわすれた

耳鳴りが蜂になり さ迷う夜に
硝子戸は祖父の 養蜂箱 にかわる
満たされていた箱と からの部屋

そして からの

一輪挿しにはまぼろしですら
花は咲かない、からの磁器は耳を吸いつけ
羽音は吸い込まれ、耳鳴りだけが返される

蜂に……

朝の陽に焼かれて蜂は
ベランダで死んでいた


自由詩 耳鳴りの羽音 version Ⅱ Copyright 帆場蔵人 2018-12-13 20:23:23縦
notebook Home 戻る  過去 未来