雨を降らせたくて
帆場蔵人


動かない、くだらない
戯れ言が舌を翻弄して

降ったりやんだり、うまくない
雨みたいなもんだ、うまくない
嘘にまみれた言葉、うまくない

語りたいこと語りたくないこと
押し合い圧し合いつり合い過ぎて
まったくうまくない、沈黙がふってくる
アルゲリッチの演奏で沈黙を誤魔化して
きみが眠ってしまったら
少しだけ雨を降らせて
朝が晴れることを
もごもご、と祈りながら
朝に淹れる珈琲のことを考えている
同じくらい雨を降らせることを考えている

不揃いな珈琲豆たちを選り分けていく
貝殻みたいな豆や砕けた豆、虫喰いの豆たち
飲みたい一杯のためにお前たちを捨てる
あるとき、お前たちで淹れた珈琲は
そりゃぁ、美味くなかった
あの味は忘れないだろう
生きる為に切り捨てた、たくさんの
ものをお前たちは思い出させるから
うまくない、だから忘れられない

不誠実なこの口に流し込む毒のようだ

うまくない、息つぎをもごもごとして
おはようとおやすみだけで生きていく
そんなわけにはいかないから
口を開いて朝を呼びに行こう


自由詩 雨を降らせたくて Copyright 帆場蔵人 2018-12-10 01:00:49
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