よしっ。いや、ちょっと マテ。
るるりら

めざめると同時に 自由の女神になっていた
すっくと立ち 右手を挙げ 情熱の象徴を高らかに天に示し
頭の中に声が響いていた「走れ!」

いや、ちょっと待て 忘れられないぢぁないか あの家の事を
わたしは おそるおそる鍵穴に鍵を入れた
ぢぁりと鈍い音がして穴は開けられることを拒んでいる
じぁあ家に入るのを止めようかと 後をふりかえると
今来た門柱までの距離には 私が なぎたおしたヨモギがうなだれて
悲しそうだ
なにもせずに帰る気か

 深呼吸し
 ドアを開けることにした
 扉の ぢぁりが、がちゃと開くまで力を入れた
 が
 扉は おもいのほか軽い

 孤独死寸前で近所の人に報告された家の主は 今頃、病院だ
 なぜ 食べるものも食べず衰弱したのか
 詮索したいのは やまやまだが
 痴呆なのか銀行印や保険証などのありかさえ覚えがないらしい
 鍵を借りて、この家の主の貴重品をさがしに来た
 かみ かみ 紙 カミ 段ボール カミ
 ふんわりと かるく 紙でできた箱と箱
 天井まで積み上げられている無数の箱を指でつつくと、ゆうらり
 幽霊のように動く埃の館
 この家の家主を証明するものを探さねば
 彼女は、保証されるのに値するのだ
 引き出しを開けると 引き出しの中が直ぐには見えない
 衣類文具や生活雑貨 全部のひきだしの中身の上に
 広告紙がおかれて 中身は遮断されている
 すべてのものが繭ごもっている 冷蔵庫の食品のすべても個包装され
 なにがなんだか分からないが昭和の日付のメモも有るから すべて捨てる
  ワカラナイ
  うごかない時間が               
  ユックリ揺レテイル
  カワラナイ
  保存された時間が死んだまま
  シッカリ動イテイル 
 
 なにやら光った!保険証通帳印鑑の発見だ!これで 家主を証明できる!
 彼女は れっきとした 私の叔母様だと証明できた
 おばさまは、わかったようなわかってないかのような透けたような微笑で
 ありがとうと 言った

 そのようにしてやっと安心し
 ねむった 
 誰かであるかと保証がされている あなたとわたし              
             
そして、たった今 めざめると同時に 
すっくと立ち 右手を挙げ 情熱の象徴を高らかに天に示し
頭の中に声が響く「走れ!」
坂道を駆け上がれ 山の間から朝日がでた 
ひさしく走ったことのない重く冷たい両足が足元から照られ血が通う
自分の体重を両足に感じつつ「走れ!」


自由詩 よしっ。いや、ちょっと マテ。 Copyright るるりら 2018-12-01 08:49:58縦
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