赫、赫と
帆場蔵人

『赫』

赫いピラカンサス、鮮やかに燃えて
秋が尽きる前に燃えてその杯から
あふれ滴る毒を孕んだ赫い果実よ

あのひと粒 ひと粒 ひと粒に
過去と未来の産ぶ声が詰まっていて
そこにわたしとあなたも重なり
それをつぐみが啄ばみ飛び立つ

赫い味を確かめ吐き出す
噛み砕かれたそれは醜く
毒を孕んで唾液に濡れて
蠢きわたしを写している

心のなかの小さな棘が人を拒むのは
ちいさな妬みや羨望を怖れるからだ
毒のような炎が無数の棘となるから
あなたの瞳からは哀しみはさらずに
常に片隅に佇んで明後日を観ている

つぐみは赫い実を啄ばみ
わたしは赫い火をつかみ
炎はひろがる その意思に
かかわらず かかわらず……

母胎につつまれていた
遠い記憶が握り締めた
こぶしから滴り落ちて
わたしは 冬の大気に
静かに燃える柱になる

火の粉は無数のつぐみへと変わり
そらを渡りどこまでも拓いてゆく
そそがれてくる冬を懐き眠るなら
また春がこの身に宿るのだろうか
ピラカンサスの毒も棘も懐き眠る


自由詩 赫、赫と Copyright 帆場蔵人 2018-11-24 01:33:23
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