「曇天に舞う」
桐ヶ谷忍

六月のアナウンサーの言う通り
私達は毎日カサを持って出かけている
高い降水確率を証拠として煽られては
保険を持ち歩かないといけない気になる

けれど外出先から帰宅した夜
カサは朝のまま乾いている

毎日、毎日だ
今日こそ雨が降る
何故なら梅雨時なのだから
降って当たり前なのだ
なのに降らないのだ

埃っぽい空気を呑みながら
かさついた肌を時々掻きむしる
渇きっぱなしの唇を濡らすため
ペットボトルを常に携帯している
毎日、毎日だ

日々しおれて
遂に伏した植物を虫を
一体誰がそれが私達に訪れる前兆でないと
否定できるだろう

雨は降らない
光は射さない
曇り空の下で
今日も私達は
役立たずのカサを持って歩き
そうしていつの間にか
どこかに姿を消してしまうのだ

それすら気付かないほど
今日もまた開かれなかったカサは
人知れず、曇天に舞い上がってゆく


自由詩 「曇天に舞う」 Copyright 桐ヶ谷忍 2018-11-19 17:18:29
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