AB(なかほど)

天の川      A train crossing
渡る列車     the Milky Way
         is
忘れられて    forgotten
         and has
過ぎ去った    gone.





銀河鉄道の話を聞きながら、僕は窓の外の
天の川を思い浮かべていた。君はそんな僕
を、とても遠いとこから探し出してくれた。
それからやさしく、解けていった。

窓はない、
最初からなかった。

そう思ってごらん。





耕す、土の中にも幾千もの命。ちぎれても
生き抜くものもあれば、七年ののちの七夜
の花で、ついのなりわいをとげるものもあ
り。それを耕す。

おかに生きるものよりも、海に生きるもの
が多いとか。わずかの影に逃げおおせれば、
これ幸い、と。我らの命の源は全て太陽よ
り得たり、とはいえ、その律動は月に、そ
の喜びは月に、その安堵は、しとりとする
土くれの中へ。

すまぬ、

全ては同じ命とはいえ、今日も耕す。ただ
己の愛するもののために、耕す。

そんな奴にさえも、木漏れ日はやさしい。
影は、
もっとやさしい。





雨が降っている。

破れた蝙蝠傘をさした賢治さんがしゃがみ
こんでいる。100年経っても芽はまだ出
ないらしい。僕らはときどき、種は蒔かれ
なかったんじゃないかと思う。

とりあえず僕は蝙蝠傘をスケッチしたけれ
ど、同じように帰りそびれてしゃがみこん
で、

こんなメルヒェンの無い土では、育ったと
ころで、咲くのも辛かろう。

と声をかけた。





とうさん
せんせいのおはなしには
ぼくらでてこなかったね
ぼくやまねこさんのように
どんぐりのさいばんしたかったな
くらむぼんみたいな友達ほしかったし
やまなしも食べたかったし
せめて銀河のどっかで
猟師さんにしとめてほしかったなあ
でもこうして
おいしいごちそうにしょうたいしてくれるなんて
ぼくほんとにうれしくて
うたいたくなっちゃうよ
ねえ、とうさん
ねえ
とうさん ってば


あああ?
     
ちょっと黙ってろう
どうも合点がいかねえ
どうも合点が
このメニュウ
先生の部屋の座卓に置いてあった
原稿用紙に書いてあったことと
そっくりだ
どうも合点が


息子よ
おれらはどうやら
よっぽどの
おぶたよしみたいだぞ

せめて最後に唄うぞ





海の動物になりたかった。海に、行きたか
った。底の方で、脊髄が列車のように並ん
で、色のない海老が、乗客のようにじっと
している。

マリンスノーの中、錆びてしまいたかった。
潮を吹くつもりで眼を閉じたら、とても懐
かしい汽笛を鳴らしてしまった。

帰る場所は海でも陸でもないから、たぶん、
ちょうど砂浜が見えるころで泣きそうにな
ってしまうんだろう。

さよならとくじらが言った。
(ように見えた)
さよならと機関車も答えた。
(ように聞こえた)

僕はどちらにも行けるような気がした。




天の川      A train crossing
渡る列車     the Milky Way
         is
ふぉがとん    forgotten
ふぉがたん    forgotten
ふぉ〜がったん  forgotten
         and has
ご〜ん      gone.








自由詩Copyright AB(なかほど) 2018-11-16 20:22:12
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