秋にとどいた手紙
石村




手紙がある

うす桃いろの
手ざはりのよい 小ぶりな封筒の
崩した文字の宛て名も品が良い
封を切つて なかを開けるに忍びなく
窓際の丸テーブルに置かれてゐる

さて 何がかかれてゐるのであらうかと
あれこれ想像をめぐらす楽しみを
もう少し 味はふことにしよう
そんなことを思ふうち 機会を失ひ
昨年の秋から そこにある

さあ さらすか さらすまいか
たつた今 この秋の昼下がりのさはやかな空気に
一年前の秋の言葉を
それとも
来年の秋の空気にするか
俺に何度も秋がのこされてゐるなら
十年後 いや二十年後にでもするか
その頃でも俺がまだ
ひんやりとしたこの秋の空気を
吸ふことができるとしたら
二十一年後に開封された言葉は
さぞかし鮮やか 爽やかだらう

さて
どうしたものか
この手紙を



(二〇一八年十一月四日)



自由詩 秋にとどいた手紙 Copyright 石村 2018-11-16 15:42:46縦
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