世界は泣いている
由木名緒美

糸を伝わる震えとぬくもり
声の往信が私達をつがいの鳩にする

時間が道路なら振り返って走ろう
白線にそって回顧の草を摘みながら
あの白い家屋に飾ってある
陽に焼けた一枚の写真を目にするため

夜には熱い夏をくべて
朝には青い誓いを杖にして
ひたすら走ろう
廃れた風景に光の粒を植えながら
蜃気楼を振り仰いで悲しみを叶えよう
喜びよりも尊い涙を抱きすくめて

不知とはまだ見ぬ過去を洗う発掘
何度醒めても覚えない夢の足跡
悪夢で変わり果てたあなたの指先を
もう一度掴みにいこう
あなたがまた牙をふるうなら
眠りの中で何度でも微笑んでくれるだろう
幻視は世界の写し鏡
誰かが泣くかぎり私は傷を負う
それで癒される瘡蓋があるならば
もうそれでいいよ

世界は泣いている
世界は泣いている

その声が産声で満たされているのならば
伝書鳩は優しい周遊に世界の夢を伝えるのかもしれないね





自由詩 世界は泣いている Copyright 由木名緒美 2018-11-16 13:34:30
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