飛蚊症のようなもの
腰国改修

君は物を盗んだことはあるか?つまり、泥棒を働いた記憶は?ない?よろしい。なら、想像してほしい。君は今から何処かの美術館に忍び込み、古い神像を盗み出す。抜き足、差し足?かえって目立つだろうか?なるほど、出来るだけ普通に、何処にでもいる一人の男を装う。そうだろ?利口でないものを除いてほぼそうするだろ?つまり、特別な任務があり、それが犯罪のように知られてはまずいことであれば、誰よりも慎重にいわゆる普通を、一般的市民の一人を装うだろう。

では、君が見た未確認飛行物体、UFOとは何だったのか?本当にUFOだったのか?

そのUFOにノッた我らが地球への訪問者は、君が思うに利口だろうか?それとも愚かなのか?そうだな、利口であると私も思うよ。利口でなければ、わざわざ遠い宇宙の彼方から、我々を超越するテクノロジーを駆使してやって来れないだろう。

さらに、もし、君が見たUFOの目的がやましいものであったなら?たとえば、犯罪、泥棒、地球侵略。もしも、そのUFOが我々に害を加える存在なら、君がそれを見た状況や時刻がかなり問題だ。君は昼食後、都会のど真ん中、大勢の人たちと一緒にそれを見た。おかしいと思わないかい?何かやましいことをしようとするUFOが、白昼堂々と大勢の人々の眼前に姿を現すだろうか?現さない。それでも見た。では、何を見たのか?UFOに見えた何かを見たんだ。恐らくそれは、飛行機かヘリコプターで一般的にはよく見かける確認済み飛行物体で、それを操縦するパイロットは、善良な市民であり、平均的な家族の長、つまり誰かの夫であり、誰かの父だろう。では、なぜ君にはその飛行機またはヘリコプターがUFOに見えたのか?実際とは異なる情報を視覚が感知したのだ。よくあるだろう?目の前に蚊が飛んでいるような気がして手で追い払っても消え去らない。飛蚊症というやつだ。そう考えれば、君が見たUFOも、実際は普通の飛行機で、普通のごく一般的な市民であるパイロットが操っていたんだよ。飛蚊症のようなもの。いや、飛UFO 症かな。


どうしたんだね?やけに訝しい目で見るじゃないか?君はどうしても自分の主張は正しい、なのに何を分けの分からないことを言うんだといったところかね?

違う?何が違うんだ?

私を疑う?どういうことだね?私は何一つやましいところのないごく普通の精神科医だ。そうだ、それがどうしたと…


  ※      ※

精神科医が患者に撃たれ死亡する事件。撃った犯人は、「地球侵略は始まっている。ごく普通の、やましいところを見せないやつらに注意しろと」語った。か…。しかし、どこまで疑い深く愚かなやつが多いんだ?だからこの星の歴史は紛争の歴史なのだな。もう少し地球人を調査しよう。


散文(批評随筆小説等) 飛蚊症のようなもの Copyright 腰国改修 2018-11-09 20:31:19
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