砂浜の言葉
腰国改修

 君がまだ木漏れ日に蹌踉めいていた頃。こう書くと笑ってしまうかな。あのとき、君は『光が眩しい』と当たり前のこと(僕にしてみればだけれど)を言ってふらついていたね。ごめんね。知らなかったんだ。

 それから君のことをたくさん知るようになってからは、二人で夜を旅したね。旅と言えば大袈裟だけど、近いとか遠いとかじゃなくて、やっぱりあれは旅だったと思う。二人とも家の人を説得したり、色々説明したりするのが最初は大変だったよね。そのうちようやく理解を得て僕らは旅を重ねた。行くあてはその時に決めて、歩いたり、自転車だったりしたけど疲れたなんて思ったことはなかったな。
 
 そうだよね、二人の旅はほとんどが近くの浜辺だった。思い出の中ではいつも潮の匂いがする。

 いつだったか、沖の方がキラキラ光るのを見て烏賊釣りの光だと言ったら、あれはキラキラ星だと君は真面目な顔で言ってたね。笑うところ?って尋ねたら、君は笑った。

 ありがとう。

 小さな声だったけど、君らしく穏やかな声だった。

 小さな頃から太陽が嫌いで、友達が嫌いで、世界が嫌いだったと君は話し始めた。月なら好きになれるかな?そう思ってから夜の散歩に出掛けて思う存分月光を浴びたいと思ったんだよね。あの日、君に出会わなかったら、今の気持ちは持てなかったし、死ぬことを考えるのを忘れることは出来なかった。

 ありがとう。

 君は小さく首を振った。砂浜に打ち寄せる波の音にかき消されるぐらいの小さな声で、君はすごく重要でとても心に響く言葉を呟いた。夜が好き。柔らかな月の光も、そしてね…
 
 ※ ※ ※
君がまだ木漏れ日に蹌踉めいていた頃。こう書くと笑ってしまうかな。あのとき、君は『光が眩しい』と当たり前のこと(僕にしてみればだけれど)を言ってふらついていたね。ごめんね。知らなかったんだ。

 それから君のことをたくさん知るようになってからは、二人で夜を旅したね。旅と言えば大袈裟だけど、近いとか遠いとかじゃなくて、やっぱりあれは旅だったと思う。二人とも家の人を説得したり、色々説明したりするのが最初は大変だったよね。そのうちようやく理解を得て僕らは旅を重ねた。行くあてはその時に決めて、歩いたり、自転車だったりしたけど疲れたなんて思ったことはなかったな。
 そうだよね、二人の旅はほとんどが近くの浜辺だった。思い出の中ではいつも潮の匂いがする。
 いつだったか、沖の方がキラキラ光るのを見て烏賊釣りの光だと言ったら、あれはキラキラ星だと君は真面目な顔で言ってたね。笑うところ?って尋ねたら、君は笑った。
 ありがとう。
 小さな声だったけど、君らしく穏やかな声だった。
 小さな頃から太陽が嫌いで、友達が嫌いで、世界が嫌いだったと君は話し始めた。月なら好きになれるかな?そう思ってから夜の散歩に出掛けて思う存分月光を浴びたいと思ったんだよね。あの日、君に出会わなかったら、今の気持ちは持てなかったし、死ぬことを考えるのを忘れることは出来なかった。
 ありがとう。
 君は小さく首を振った。砂浜に打ち寄せる波の音にかき消されるぐらいの小さな声で、君はすごく重要でとても心に響く言葉を呟いた。夜が好き。柔らかな月の光も、そしてね…
 
 ※ ※ ※

 相変わらずの日々を送っている。月日なんて、あっという間に流れていく。暑い夏だった。ほんとに、太陽は容赦がないよ。君が太陽を嫌った気持ちがよく分かる。
 
 あれからは、しばらく手紙をくれていたね。返事を書いたけどなぜか舞い戻ってきた。どうして君の手紙だけが届く。なぜなのだろう?不思議だった。それでも、手紙を書くことはやめなかったけど、いつの間にか忙しくなって手紙を書けない出来事が続いたり、思いもよらないことが重なったりして、気がつくとこんなに時間が消え去ってたなんて。

 時々、海辺には一人で行くよ。一人で砂浜に座っていると、微かに君の笑顔が見えるみたいで。当たり前だけど歳を取って、皺が増えたり、白髪が増えたり。でもね、君はあの頃のままだ。

 あのとき、言えなかったことが今なら言える。何度でも、何度でも。君に聞こえることがないことは分かってるんだ。でも、月の光に紛れるようにして言うんだ…


散文(批評随筆小説等) 砂浜の言葉 Copyright 腰国改修 2018-11-06 14:37:12
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