呟き
帆場蔵人

誰に語るということもない
老いた人の呟き、そこに何があるのか
そこに道がある、人の来た道がある
ふたりの兄は死んだ、戦さで死んだ
だから戦地に送られなかった
兄たちは勉強が出来た、友人が多かった
わしは頭が不出来で、友人も少ない
でも生きている、その呟き

誰に語るということもない
人の呟き、ひとりの部屋で
朝に呟き、またしまい込み
昼に呟き、それを放り出す
夕に呟き、ただ黙りこんで
でも生きている、呟きは生きている
雨ざらしになり、軒に吊り下げられた
洗濯物の下でそれを見上げている

誰に語るということもない
老いた人の呟き、そこに道がある
人の来た道がある
その呟きを拾えば
その息吹が道を示す
まだ道は続いていく


自由詩 呟き Copyright 帆場蔵人 2018-11-04 23:35:32縦
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