朝の窓辺のスケッチ
春日線香

 窓辺に石を置いて。

 太陽の銀の腕が頭の上をかすめて、ぼくは聴いている。耳
のないきみもまた、同じように。高速道路を走る軌道トラッ
クが光を遮って闇を目指していた。オーガンジーの彩に……。
 それとも、割れた壺のように?

 イヤホンが片側だけで片歌を歌っていた。
 低く飛ぶカラスの群れにつられて、鼠も目を覚ます。
 徹夜の人々が溢れ出すのが、この時空ではよろめきという
言語で記された、ただ、瞼を焼いて髪を逆立てて。その時、
夢見られた夢がゆっくりと引き潮に乗って逃れ去る。
 射手座と蠍座が牛乳を降り注ぐ。街路樹たちは、うんと伸
びをする。
 ぼくは一人だ。

 窓辺に石を置いたのはきみだろうか。
 陶片に記された物語を読むのに夢中な肺の持ち主。
 ネットに入れてバジルを乾燥させている。洗濯物の横では
ぶら下がったハンガーが一本、顔をしかめる。
 詩を一つ書く。

 どんな時空も嘘で、嘘が時空で、厳かに震える、ホルンが
地底で割れているといっても信じようとしない。色が砕けて
やり場がない。泡が潰れる。水が吐き出されて。

 窓辺に石を置いて。

 詩は幾筋もの川を流れようとしているのに、記憶は枝分か
れして様々な脳に流れ込むのに、軌道トラック、小さな肉体
を運ばれて、チューブの中に滑り込む。スローモーション。
 伏せられた部屋。あなたたち。

 五個の石。それから三つの石。

 ニュースでは追突された子供が死んだ。死んで、新しく蘇
ろうとして足を滑らせた子供たちが歩道橋を急ぎ足で渡って
いく。古新聞がくしゃくしゃになって瓶詰めになる。悲しい
とは思わない。悲しいとは

 思わない。
 ぼくは一人だ。大勢の影が地面に突き刺さる。

 断水が突如やってくるのがこの地図の端。夜中の息を吐く
と眠りが筒の中で反射されて、出口や入り口を祈っている。

 思わない。
 ぼくは一人だ。寝不足のトーチカの群れ。

 窓辺に石を置いて眠りが来るのを待っている。
 
 それとも、割れた壺のように?
 コーヒーを飲み過ぎた海辺の生き物のように?




自由詩 朝の窓辺のスケッチ Copyright 春日線香 2018-11-04 06:56:03縦
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