ただ、歩く
秋葉竹


炎の刻印が
街に押されて
ようやく
冷たい夜が明ける
街のマリア様たちは
眠い目をこすって
もう、
明日から振り返ったとすれば
何度目の
希望を
浪費しただろう

夜は
朝から蔑まれて
焼き尽くされるまで
嫌われている

ちょっとだけ
淫らな声で
いまよりもずっと若かった頃の
愛する人をいざなう目で
そっと
好きって言うな

心に残る
さまざまな想い出を
消し去るな

惚けた顔で
世界と向き合うな

そのいちばんたいせつな人との
泣きたいくらい幸せだった日々を
取り戻せない!

聞こえない!

あのころの私だけ
こころなくした
あさましい屍を晒す

歩いて

忘れなければならない
運命の仮面をつけた
正しい笑顔を
見せられる魔法の風景
切り取られた
一瞬でもいい
悲しい涙が乾くその刹那を
見せておくれよ

そして
さまざまな
忘れてしまっていい
不幸や災いの記憶だけが
けっして消えない
靭く刻み込まれた銅版画の刻みだと
あらためてどす黒い絶望を
与えてくれる苦しみを
癒してよ

歩いて

どこかゆくさきの道標には
すがりつくことができたのだろうか

歩いて

ゆかねばならないだろうか

歩いて








自由詩 ただ、歩く Copyright 秋葉竹 2018-11-03 04:00:11
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