血で血を涙で涙を汗で汗を
こたきひろし

もしかしたら
ヒトの成分は
血と涙と汗だけで
てきているのかもわからない

喉が異常に渇く
「オーイお茶を」と妻に声をかけた
反応がない 無理もなかった 彼女の両の耳はイヤホーンで塞がれているのだ
それはいつもの事だから、わかっていたけれどあえて言ってみたのだ
喉が異常に渇く
私は自分で立ち上がると冷蔵庫まで歩きペットボトルを取り出すとキッチンからコップを探した 冷たいお茶を注ぎ一気に飲んだ

その様子に妻が気がついて
「貴方、言ってくれたらわたしがしたのに」
その言葉に私は冷めた声で
「言ったけど、君はスマホで聞こえなかったんだろ」
「えっ何」
私が言っても彼女はイヤホーンを外さないから、聞こえる筈もなかった

私はそれ以上何も言わなかった
夕飯は食べ終わったし、風呂も入った
仕事の疲れは一応は
癒されたかもわからない

夫婦とは言え、もとは他人だ
確かに結婚して一年くらい、子供ができるまでは
男と女が一つ屋根の下でお互いの存在に刺激され、愛してるとか、一生離れたくないとか、よく口走ったものだ
でも
出産と子育てに忙殺されてしまうと、私はお金をせっせと運ぶだけの
でんでんムシムシカタツムリになっていた
専業主婦の肩書きをつけた彼女は母親になってしまい、
疲れているからを、言い訳にして度々背中を向けるようになってしまった

何だかよくわからない
さっぱりわからない

何だか、悩みの種はそっちかよ
いい年こいてみっともない

夫婦はそれこそ
人間愛まで上らなければ
解り合えないんだよ

他人同士がどっちかの灰になった骨を拾うまでは

それは嘘だ
私の父親はよく言ったもんだよ
男と女のあれは
灰になるまでだ

そして私が結婚する時には耳元で囁いたんだ
女はあっちさえ満足させてやれば
たいがいの言うことを聞くって
教えられたんだよ

私にも父親の血が流れているんだよ
それは確かだ


短歌 血で血を涙で涙を汗で汗を Copyright こたきひろし 2018-10-28 09:51:47
notebook Home 戻る  過去 未来