月花
1486 106

三日月の夜にだけ零れ落ちる
月の雫を浴びた花のことを
この地では月花と呼ぶ

その花を煎じて作られた秘薬は
古くから健康長寿の源として
月夜の民に親しまれてきた

真面目に働き旅人にも優しい
村の評判もとても良かった
みんな幸せに暮らしていた

どこで噂を聞きつけたのか
秘薬を持ち帰った朝日の民が
献上品として王様に差し出すと
瞬く間に人々に知れ渡った

兵隊達に包囲された村
秘薬を作れもっと作れと
月夜の民を酷使し続けた

秘薬は大層高く売れたが
月の雫は僅かしか取れず
村人達には行き渡らなかった

程なくして村人達は病に倒れた
せめてもの抵抗とでもいうのか
秘薬を作るための方法については
誰一人口を割らなかったという

気の遠くなるほど昔の出来事

三日月の夜にだけ零れ落ちる
月の雫を浴びた花のことを
この地では月花と呼ぶ

今では愛し合う恋人達が
首飾りに使う神秘の花にも
秘められた悲しい逸話がある


自由詩 月花 Copyright 1486 106 2018-10-25 20:23:23
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