シオマネキ
1486 106

切り落とした無数の黒髪が
浴室の床に散らばっている

鼓膜の真横から聞こえてくる
二つの刃物が擦れ合う音

例えるならば泡
閉ざされた水槽の底から
少しずつ浮かび上がってくる
泡 泡 泡 泡 泡

外は明るいのか暗いのか
確かめようにも小窓はなく

微かに漂う黴の臭いが
脳細胞を侵食していく

例えるならば泡
微生物にまとわりついて
少しずつ体を溶かしていく
泡 泡 泡 泡 泡

混濁した記憶を寄せ集め
正気を取り戻そうと試みても

目の前の鏡はひび割れていて
その顔がよく見えない

例えるならば泡
しゃぼん玉のように脆く
少しの力で簡単に壊れてしまう
泡 泡 泡 泡 泡

流れているずっと流れている
蛇口から水がずっと流れている
流れているずっと流れている
蛇口から水がずっと流れている


自由詩 シオマネキ Copyright 1486 106 2018-10-18 07:26:25
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