それをもってしてそれをしない
竜門勇気


カミングホーム、酒瓶の花束もって

今、くたびれた部分を
体のどっかにかかえて
ひきずりまわる
長い道のはじめの方にいる

石が冷たい
土が乾いて凍ってる
頬をかすめてる風を
にらみつける
あー、夜だったんだな
星が見えた
僕のうちに来るときには
持てるだけ酒瓶を抱えてこい

跳ね橋を渡って
うさぎが見える
今、余分なものを壊すたびに
その無分別な怒りが無為の作ったものだって気づくんだ
一番立派な豆を煮たもの
それが腹を満たす
言葉が与えられて
翼や爪や牙や素晴らしい貪欲さも僕のものになる
そしてそれをもってして

石が冷たい
土が乾いて粉になる
頬に当たる冷たさは致命傷だ
昼間を交わし損ねたんだ
ばったり。ここで終わるよ
星がまた見えた
覚えてる星座が全部見えた
僕の家を訪ねる時は
酒瓶を花束のように抱いて来い
いつ来ても良いさ
ドアを開けることができずに伸びてる僕に
それを渡してくれ

長い道は行ってるときには
どうでもよく思えるもんさ
帰らなきゃいけないなんて思わねーもんさ
僕はここでやめる
行きもしなきゃ帰りもしねーもんさ
ドアを開けられずに伸びてる僕に
それを渡したあとは
君は君で何本か空けて
そんで次に行けばいい
そんな仲だろ?

なにか要領を得ないことを話したら
わりーね
その前に話したことだけ覚えててくれ
次は冷たい水を口いっぱいに含んでこいよ
んなこと言うかもな
もちろん両手いっぱいに酒瓶もってな

長い道のはじめには
こんな気持にもなるさ
そう言ってきえちまえ
そんなもん焚き火の煙で
自殺するようなもんだぜ
そう言ってきえちまえ
しゃがみこんで僕の手とか
顔とかを覗き込んで
面倒事はごめんだなとか
こんなもんかとか
そう言ってきえちまえ

鱗粉でいっぱいの翼
柔らかな牙、あたたかい爪
どこにもはばたかずきえていく
僕を覗き込んで満足したら
きえてくれ
きえろ!


自由詩 それをもってしてそれをしない Copyright 竜門勇気 2018-10-15 12:25:57
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