ちいさなびんとプラスチックのふた
竜門勇気


ちいさなびんがへやのなかでおおきくなりつづけています

けさ、カップに作ったコーヒーはどんどん小さくなってしまいました

ちいさなびんはだいじそうにカップをもっています

はねのもようの小さなカップ

へやいっぱいの大きなちいさなびん

大きなちいさなびんはまるでみんながしってるあのこみたいに

へやをつきやぶってしまいましたよ

それでも大きなちいさなびんはコーヒーのはいったカップをみつめています

おおきなゆびでこわさないように

じっと、じっとしています

まちでいちばん大きな木

まちでいちばん大きな屋根

まちでいちばん大きな山

ちいさなびんは大きい大きいせかいより

もっともっと大きくなりました

ちいさなびんはこんなに大きくなったのに

ずっとコーヒーのはいったカップをみつめていました


じぶんが大きくなるたびに

ちいさくなるコーヒーカップがだいじに思えてきたのです

もうちいさなびんより大きなものはなくなりました

からだの中しんにむけてひっぱられるような気がしました

あるときついにちいさなびんはコーヒーのはいったカップから目をはなしました

そうするととつぜんにちいさなびんはこなごなにくだけて

からだの中しんにむかってちぢんでいきました

ちいさなびんはとてもくるしいきもちになりました

いたくていたくてなきそうになりました

ぼくはばらばらでとりとめがないのはいやだ!

いたいよう、かなしいよう、ぼくがぼくじゃなくなるのはさみしいよう

つらいよう、しにたいよう、しんでこのつらさからにげたいよう

わすれられて、かえりみられず、うまれたいみもなくなってしまう

とおいところにいきたくないよう

みんながいないばしょにいきたくないよう

つらいよう、つらいよう、
いたいよう、いたいよう
きえるのはいやだようさみしいよう
かなしいようくるしいようわすれられる
いなかったことになってしまう
こうふくがなくなってしまういたいのもきえちゃうよ
かなしいのもぜんぶきえちゃうよ

おおきなおおきなちいさなびんは

じぶんのちいさなびんにもどっていきました

ちいさなちいさなてんになろうとしていました

ちいさなてんになってだれからもみえなくなりました

そこにおおきなおおきなカップがおちていきました

はとが一匹それをみていました

おちていくカップとコーヒーのつぶが

ちいさなびんにちかづいていって

ピタリととまってみえました

そのあとゆっくりくらくなりきえてしまいました

はとは一匹でそれをみました

なんだかとても息苦しくかんじてまわりをみわたすと

ひかりのつぶが集まったばしょがたくさんあることにきづきました

はとはつばさをなんどかうごかして

そこへいこうとしてみました

いきぐるしさはすぐにむねのおくまでしみこんで

はばたくきもちはなくなりました

はとはわかったので

かんがえるのをやめました

さっききえたコーヒーのはいったカップがあったところに

くしゃくしゃになっていく羽をふりました

つらいよう、つらいよう、
いたいよう、いたいよう
きえるのはいやだようさみしいよう
かなしいようくるしいようわすれられる
いなかったことになってしまう
こうふくがなくなってしまういたいのもきえちゃうよ
かなしいのもぜんぶきえちゃうよ

にじのなかではとはみました

尾をひいてきえいく地平を

ちいさなびんのなかに落ちていく白いカップを


自由詩 ちいさなびんとプラスチックのふた Copyright 竜門勇気 2018-10-12 01:39:44
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