ノーバディ
青花みち

細胞が音もなく引きちぎれて、消滅と分裂の繰り返しが体のすみずみを満たしている。一年後、五年後、十年後のあたしからオリジナルのあたしが目減りしていく。きっときみは化け物で、とうに正気を失っていた。あたしもそうかもしれないね。ここにいる自分が誰であろうと、地面に足がついているから幽霊ではないと信じたい。他人の承認でしか実存を証明できないなら、いまものを考えているあたしを否定しないで。みんな偽物なんです。偽物だらけだからさみしい気持ちが飽和して、この街には灰色の霧が立ち込めている。もしもオリジナルのあたしを取り戻したならいまのあたしはいなくなってしまうのかな。爪を噛む。味のしない味がした。あたしの死骸がまずくなくてよかったなあ。本物でも、偽物でも、化け物でも、それだけが救いだと胸を撫で下ろしている。名前のないあたしのことです。


自由詩 ノーバディ Copyright 青花みち 2018-10-09 11:11:23
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