ほんとうなら
立見春香

ほんとうなら、あの夜は
晴れて、きれいに星が見えるはずだった
それで、ほんのりと酔っぱらって
ふたりむかしみたいに、仲良くなれるはずだった

けれど降った雨を
うらんでなんかいない
傘を忘れてしまったのも
みんなわたしが悪いだけ
あの人は
絶望から立ち直ろうとしていた、あの夜、
それだけが、ほんとうに、哀しい


あの夜、くったくなく
笑ってくれた彼の
吹っ切れた笑い声をおぼえている

これほど忘れられない、
笑顔も、笑い声も、ないだろう

たえられないとすれば、
あの夜みられなかった
降るはずだった星の、
のこしてくれるはずだった、
ほんのひとかけらの星の宝石が
触れないほど美しかったはずだったことだ

なぜだろう、
あの夜の、
あの降らなかった星の欠片と、
あの夜の、
あの人の子どものころのような笑顔だけ、
いまでも私を苦しめる

あの夜、雨が降らなければ、
わたしはしあわせという夢の楼閣の一室で
あの人に見守られながら、
うとうととしていられたのだろうか




自由詩 ほんとうなら Copyright 立見春香 2018-10-06 08:34:34
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