暑い夏がすぎた
ころ、
スーパーでは
松茸や
梨、
ぶどう、
秋刀魚が売られている

家では
百均かどこかで買った
ステンレスの型抜きを使って
たくさんの紅葉のかたちの人参を作る
作ったやつは、下茹でして
ジップロックの袋に入れて冷凍する
鍋のときにそれを使うと、
見た目がいかにも秋でとても楽しいから

で、
今夜は
秋刀魚のパエリア
と、
高知の名酒
文佳人で、
母ちゃん、一杯やっか？

作り方はかなりいいかげん
洗わない米をフライパンで炒めて
塩とにんにく、
カレー粉を加えてもう少し炒める
米一合に対してコップ一杯半くらいの
コンソメスープをそこへ注ぐ
火は強めでかまわない

秋刀魚は二匹か三匹、
アタマを落とさずに半分づつに切って
グリルでこんがりと焼きます
焼けたら蓋をしていないフライパンへと
――まだ煮汁のある、
黄色く染まった米の上に載せる
ただ載せるわけだけど、
これはもうセンスしだい
ボクならやっぱりテキトーの流儀で
そして蓋をする

チリチリという音がしてきたら
そろそろ‥‥
それも、耳じゃなくテレパシーで
チリチリという音がしてきたら
そろそろ、
です
火を止めます
そしてあと蒸らします

蓋を取る、
外す、取り外す、
どれも意味はだいたい同じ
蓋を外したら湯気と香りを顔にあて
炊きあがりを占います
眼を瞑っていても湯気の中から声がします
～イイヨー、炊けたよォー
とか、
～んイヤー、まだだよ―
とか

人生、まだのときもある
ちょっと食べてみて
芯があるかどうか確かめます
あっ、ちょっとまだっぽい‥‥
そんなときはもういちど加熱するのですが
もしも水気がまったくなかったら
コンソメスープをあと少しだけ足しましょう
大丈夫。テキトー、テキトー、
えへへ、ぜったいなんとかなるって

もうアカン、
生煮え大失敗だとしても
耐熱皿に移してかえて
電子レンジでチンすりゃ良いだけなんだし
悩むことなんてまったくない

～イイヨー、炊けたよォー！　
湯気とともに美味しい声がテレパシーで叫びます

それじゃあ、飾り付けとゆきますか
パエリアの縁にレモンのくし切りをならべます
あ、これはすだちの輪切りでも良いのかも知れない
そして茹でもどした紅葉のかたちの人参もならべましょう
さらに刻みパセリも気分でふりかけます

秋刀魚のパエリア
リビングの窓を開け放ち、
杉枡にいれた赤い魚子模様のグラスと
涼冷えの文佳人を運んで
――完成です。