メモ
はるな


10月はさびしい。コーヒーカップにのこるしま模様、イヤフォンごしの喧騒、チェックのスカート、ブーツ、冷えゆく空気をおし返す陽射し。猫たち、痩せて、鳴いてもよわい。指輪を磨くシート、洗剤とシャンプーと歯磨き粉、食器洗いのスポンジって死ぬまでにあと何個買うんだろう。15歳くらいまでに読んできた文章が内臓と内臓のあいだにかたまりになっててことばはだいたいそこから出てくる。今日も絵本読んでくれる?って聞く娘のちょっと心もとない感じの眉毛かわいい。もちろん読んであげる、持っておいでって言ってえらぶ真剣な眉毛もかわいい。ママがいなくなったらどうするの?って聞いちゃう、そんなの聞いたらいけないのにって思いながら、そしたら泣いちゃうんだって。泣いちゃうのかあ。泣いて、それでもいなかったらどうするの?っていうのは聞きたいけど、まだ聞かない。
赤と青どっちにする?フリルとリボンとは?ずぼんとスカートどっちを履く?って聞きながら育てたけど、もうすぐ彼女も気づくと思う。自分が欲しいものがわかっていると少しは生きやすい。
欲しいものは手に入れてきたしこれからもそうするつもり。って思ってた。欲しいものがなくなったらどうなるんだろう。わかりたいことがなくなったら?わからなくてもいいやっていうか、わからないことにも気づかないで。理解しようとすることで過ごしてきた。この世界が、「そうでなかった」場合は?
いつまでも舫われているわけにはいかないのかもしれない。かといって海は広すぎるし、わたしは陸ではないし。さびしい舟同士ではどこへもたどり着けないから、陸のひとを好きになった。娘に「わたしでないこと」を望みすぎていないか、と考えるとき、うすらおそろしい心地がする。


散文(批評随筆小説等) メモ Copyright はるな 2018-10-02 09:33:59
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